2014年1月23日木曜日

古英語詩の読み方2と謎詩53番

古英語の読み方まとめ2です。

ついでに、古い文字の打ち方についても、軽く書いておきました。一々特殊文字を挿入するより、こういった手段を採るほうがはるかに簡単です。

また、この間は参考文献を挙げるのを忘れていましたので、今回は一番下にまとめてあります。




(前回に続き)

3. 当時も今もある文字だけれど、読み方が少々変わってしまったものもあります。

・<g>:[g][j](英語の'y'と同じ)、[ɣ](ドイツ語なんかにある発音です)。一番最後の音は、母音と母音に挟まれているときに起きますが、必ずというわけではないようです。


・<c>:[k]、[tʃ]。読みの区別には、法則はないと思います。たとえば、ic'I'なら/itʃ/と読みます。

・<y>:[y](ドイツ語の<ü>と同じ)。たとえば、cyning'king'

・<h>:音節の始まりでは[h]と読みます(たとえばhwæt, unhēanlīce)が、それ以外の場合は[x][ç]になります。これらは、ドイツ語のNachtichとの<ch>の部分と同じ発音です


4. 文字を組み合わせることによって、発音が変わることもあります。

・<sc>:[ʃ ][sk]、つまり現代英語の<sh>の発音と<sk>の発音です。例ば'fish'の綴りは、当時はfiscでした(読みは同じ!)。主にこちらの読み方のほうが多いです。ただしscōl'school'など、[sk]と読む場合も時々あります。



 元々古英語には<sh>の方の発音しかありませんでしたが、北欧のデーン人、所謂ヴァイキングたちがブリテン島へ攻めてきて定住し、言葉が混ざり合った結果、[sk]の発音も入ってきました。現代英語で[sk]と読むものは、大体は北欧語由来の単語です。例えば、<sky>など
 面白いのが、shirtskirtの関係。実は、両者は語源が同じです。どちらが古英語で、どちらが北欧系かは、すぐ分かると思います。古英語と古北欧語は同じゲルマン語で、いわば親戚筋。被っている単語も沢山あるのですが、当然発音が少々違います。それを、古英語を話すアングロサクソン人は別の単語と理解して、自分たちの元々の単語とは別の意味を付けたのでしょう。(当時のヴァイキングの服装がアングロサクソン人のそれと少し違っていたから、という可能性もあると思います。)

・<cg>:[dʒ]と読みます。ecg'edge'など。

・<ea>:[æa]と読みます。feallan'fall'など。



5. 初心者用入門書の表記では、綴りを読みやすいように変えていることがあります。

・上でも書きましたが、<ƿ>の代わりに<w>を使う場合が多いです。

・同じ綴りでも母音が長いか短いかで別の単語になる場合があるため、長母音の上には '̄' という棒線で表す長音記号を付けます。

・<c><g><ng>のそれぞれの字の上に点が付いている(たとえばġ)ときは、順に[tʃ]、[j]、[ndʒ]と読みます。最後の<ng>は特に、使われる状況がわかりにくいと思いますが、たとえばengel'angel'などがあります。

全ての教科書や参考書がこういう表記をしている訳ではありませんが、文の意味を理解するうえで必要なので、大抵最初の二つはやっていると思います。私も、点の付いた文字を打つのが面倒なので、<ƿ>=<w>表記と長音記号表記のみにしています。



6.古英語をPC上で打つには、いくつかの手段があります。


・これらの文字の一部は、アイスランド語キーボードを設定すればお手軽に打てます。<þ>ð>æ>が使われています。

・また、ƿ>などのかなり特殊なものも、unicodeの最新バージョンには含まれているそうです。どうしても古英語の文字が打ちたい!という方は、junicodeフォントのインストールをお勧めします。unicodeなので、他のPCでも文字化けせずに読むことができるためです。変換方法は、たとえば<ð>なら、00F0と打ってから、altとxを押します。このコードポイントを記載したPDFは、junicodeをインストールする際に一緒にDLされます。

**中世っぽい字体を打ちたければ、古英語の教科書や学習サイトも作成しているPeter Baker作のOld English Font Packがお勧めです。ベーオウルフ写本そっくりの文字などが、打てるようになります。こちらはunicodeではないので、このフォントをインストールしていないPCやその他の媒体では読むことができません。



さて、今度の謎詩は、53番。古英語、現代英語訳、日本語訳の順です。現代英語はかなり直訳的にしています。

答えは、反転してご覧ください。


Riddle 53
Ic wæs wǣpen, wiga.   Nū mec wlonc þeceð
geong hagostealdmon   golde ond sylfore,
wōum wīrbogum.   Hwīlum weras cyssað;
hwīlum ic tō hilde   hlēoþre bonne
wilgehlēþan;   hwīlum wycg byreþ
mec ofer mearce;   hwīlum merehengest
fereð ofer flōdas   frætwum beorhtne;
hwīlum mægða sum   mīnne gefylleð
bōsm bēaghroden;   hwīlum ic on bordum sceal,
heard, hēafodlēas,   behlȳþed licgan;
hwīlum hongige   hyrstum frætwed,
wlitig on wāge,   þǣr weras drincað,
frēolic fyrdsceorp.   hwīlum folcwigan
on wicge wegað,   þonne ic winde sceal
sincfāg swelgan   of sumes bōsme;
hwīlum ic gereordum   rincas laðige
wlonce tō wīne;   hwīlum wrāþum sceal
stefne mīnre   forstolen hreddan,
flȳman fēondsceaþan.   Frige hwæt ic hātte.


I was a weapon, a warrior. Now a proud one covers me,
a proud young warrior, with gold and silver,
bent and twisted ornamental wire. Sometimes men kiss me;
Sometimes I go to battle, summoned by the voice 
of comrades; sometimes a horse carries 
me over borders; sometimes a sea-horse*
carries me across waters with bright treasures;
sometimes some women fills me,
my bosom adorned with rings; sometimes I must lie on a board(/side of a ship/ a shield),    
hard(/resolute), headless, and lie stripped(despoiled).
Sometimes I hang, adorned with ornaments,                  beautiful on the wall of a building, where men drink,
I am a beautiful war-ornament. Sometimes warriors
carry me on a horse, then I richly adorned will swallow wind from someone's bosom; sometimes I with my voice will     summon warriors,
summon people to wine; sometimes with my wroth 
voice I must save that which has been stolen, 
put to flight the robber. Ask what I am called. 



私は武器であり戦士であった。今私は
若く誇り高い戦士によって金銀で覆われ、
ねじられた装飾の金属の線によって飾られている。時々私は人々に接吻される。
時々私は仲間の呼び声によって
戦いへと赴く。時々馬が
私を国境を越えて運ぶ。時々海の馬*が
私を輝く宝物と共に(として?)運ぶ。
時々腕輪をし女たちが輪で飾られた私の胸を満たす。時々私は固い板の上に
頭を撥ねられ、裸になって横たわらねばならない。
時々私は飾り物として、
人々が酒を飲む建物の壁に美しくぶら下がる。
美しい戦の飾りとして。時々戦士たちが
私を馬で運ぶが、その時飾りを付けた私は、
誰かの胸からの風を飲まねばならない。
時々私は声によって戦士たちを招聘し、
人々をワインへと誘う。時々は怒りをもって
私の声によって盗まれたものを救い出し、
泥棒を逃げさせねばならない。私が何と呼ばれるのか、訊ねなさい。

答え:角(角杯、角笛)

解説:
*sea-horse=船のケニング(言い換え表現)
角は角笛として戦に使われることもありましたが、装飾され、蓋などを取り付けられて酒を入れる角杯にもなりました。6,7世紀のアングロ・サクソン人有力者の船墓であるサットン・フーの船塚からも出土しています。美しく細工された角は戦利品として略奪され、貴金属の蓋は切り取られることもあったでしょう。



参考文献:

橋本功(2012)『英語史入門』、寺沢盾(2008)『英語の歴史』、中尾俊夫・寺島廸子(1988)『図説英語史入門』、市河三善、松浪有(1986)『古英語・中英語初歩』Peter Baker (2012) Introduction to Old English, Richard Hogg (2003) An Introduction to Old English, Bruce Mitchell and Fred C. Robinson (2011) A Guide to Old English、Bernard J. Muir (2006) The Exeter Anthology of Old English Poetry
その他大学の講義などからの(曖昧な)記憶(その場合はその旨明記します)
*よくわからない場合は、その旨も明記しています。ご存知の方がいらっしゃいましたら、教えてくだされば非常にありがたいです。

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