2015年6月21日日曜日

古英語の12月

古英語にも、一年には12月の区切りがあったようです。
以下の古英語の12月は、Old English Matyrology中に出てきたものを、メモしておいたものを元にしているのですが、どのようなところで出てきたものかうっかり詳細を見失ってしまいました。

 この並びを見る限り、今のmonthの以前の形であるmonað/þという語が語尾につかないものもあります。私には、ラテン語の月の数に古英語の月を対応させるために、あえて増やした「月」もあるのではないかな、という気がします。でも完全なる憶測です。
 月の名前の由来ははっきりしませんが、尊者ベーダという当時の学者はキリスト教以前の異教時代と関連付けて意味解説していることが多いです。ただ、それも正確かどうかはいまいちわかりません。疑わしいこともあります。
 とりあえずは、メモ程度に。またわかった事があれば、記事にしてみようかなと思います。


1月: Æftera Geola (monaþ): The Latter Month of Yule (After-Yule). 冬至後の月ですね。

2月:Solmonað: ?? sol=mud? (実際、英国では地面がどろどろになる時期ではあります)でも、ベーダに拠れば(異教時代)「ケーキを神々に捧げたから」だそうですが、solをケーキとする用法はここ以外では見当たらないそうです。

3月:Hredmonað: ?? hreð=glory, fame. ベーダに拠ればRhedaという女神を崇めた月だそうです。どうなんでしょう。

4月: Eastermonað: Easter Month: ベーダに拠れば、Eostreという女神を崇めた名残だそうです。

5月: Þrimilcemōnaþ: Month of Three Milkings. 一日に三回乳絞りができる季節なのだそうです。

6月: Ærra Liða: Earlier Mild/Calm (Month). 海の旅に向いた穏やかな季節、ということだそうです。日本では台風の季節ですが。

7月: Æftera Liþa: Later Mild (month).海の旅に向いた穏やかな季節の後半ということです。

8月: Weodmonaþ: Weed Month. 草(雑草)の月。多分、生い茂るのでしょう。 

9月: Heiligmonaþ: holy month. ベーダはこの月については、「聖性の月」としか言ってくれません。

10月: Winterfylleð: Winter Full Moon. ベーダに拠れば、昔の人は一年を、昼が夜より長い夏と夜が昼より長い冬に二分していました。冬が始まる月がWinterfylleðであり、この月の最初の日から冬が始まることから、Winter+Full moonのこの語ができたそうです。

11月: Blodmonað: Sacrifice Month. ベーダに拠れば、供物として神々に動物を捧げた月だそうです。

12月: Ærra Geola: The First Month of Yule (Before-Yule).  冬至前の月です。


参考:
Old English Martyrology. Anon.
De temporum ratione(The Reckoning of Time). Bede.

2015年6月3日水曜日

謎詩59番

ものすごく久しぶりに。

Ic eom weorð werum,   wīde funden,
brungen of bearwum   ond of bēorghleoþum,
of denum ond of dūnum.   Dæges mec wǣgun
feþre on lifte,   feredon mid liste
under hrōfes hlēo.   Hæleð mec siþþan
baþedan in bydene.   Nū ic eom bindere
ond swingere,   sōna weorpe
esne tō eorþan   hwīlum ealdne ceorl.

Sōna þæt onfindeð   se þe mec fēhð ongēan
ond wið maegenþisan   mīnre genǣsteð
þæt hē hrycge sceal   hr
ūsan  sēcan
gif 
 unrǣdes   ǣr ne geswīceð
strengo bistolen   strong on spr
ǣce,
mægene binumen;   nāh his mōdes geweald
fōta ne folma.   Frige hwæt ic hātte,
ðe on eorþan sw
ā   esnas binde
dole æfter dyntum   be dæges lēohte.



I am valuable to men, found far and wide,
brought from grove and from mountain-slopes,
from valley and from hill. By day I was carried 
into the air on feathers, carried with cunning
under the protection of the roof. Men later
bathed me in a tub. Now I am a binder
and beater, (I) immediately throw
a man unto earth. Sometimes an old peasant.
He immediately realises this, he who seizes me against him,
and with force grapples with me,
so that with his back he must seek the earth,
if he foolishly does not desist earlier.
Deprived of strength, strong in speech,
deprived of power, he does not have courage against control
of neither his hands nor feet. Ask what I am called,
who upon this earth binds men so, 
dazed after blows by day's light.


私は人にとって貴重なもので、様々なところにあり、

茂みや山の斜面から運ばれる、
谷や丘からも。日中私は
羽に乗って空中に運ばれ、巧みに
屋根の保護の下へと運ばれた。人々は後に
私を浴槽に浸した。今や私は縛る者であり
殴る者であり、私は直ちに
人を地に投げ打つ。あるときそれは年老いた農民で、
それに気づいた彼は私を近くに掴み、
そして力をもって掴みあう。
そうすると彼は仰向けに地面に倒れなければならない、
もし彼が愚かにもその前にやめなければ。
膂力は奪われ、言葉は強く、
力は奪われ、彼は制御することができない、
自らの手も足も。私が何と呼ばれるのか聞きなさい、
そのように人を地に縛り付け、日の光に殴られて目をくらませることのできる、この私はなんと呼ばれるのか。




答えは反転で:蜂蜜酒
蜂蜜酒(ミード)は文字通り蜂蜜と水を混ぜて発酵させ、アルコール分のある飲料になります。前半6a行まではどのようにして蜂蜜が採取され酒になるのかを、後半6b行以降は酒としての効能を歌っているのでしょう。

2014年5月16日金曜日

謎詩7番

Riddle 7
Hrægl mīn swīgað,  þonne īc hrūsan trede,
oþþe þā wīc būge,   oþþe wado drēfe.
Hwīlum mec āhebbað   ofer hæleþa byht
hyrste mīne   ond þēos hēa lyft,
ond mec þonne wīde   wolcna strengu
ofer folc byreð.   Frætwe mīne
swōgað hlūde   ond swinsiað,
torhte singað,   þonne ic getenge ne bēom
flōde on foldan,   fērende gǣst.


My dress falls silent, when I tread on earth,
or when (I) inhabit (my)abode, or water disturb.
Sometimes (the dress) lifts me over the dwelling of men,
my trappings and the high air(lifts me),
and far and wide the strength of the skies carries me
over the people. My ornaments
resound loudly and sounds melodiously,
sings splendidly, when I am not at rest
and (when I am) a travelling spirit, setting out over the flood and the earth. 


私の衣は、私が地を踏むとき静かになる。
或いは私の住まいにいるとき、或いは水をかき回している時。
時々私の衣服は、私を人の住まいの上に持ち上げる。
私の衣服と高い空が私を持ち上げ、
そして広く遠く空の力は私を
人々の上を運ぶ。私を飾るものは
高らかに響き、旋律を奏で、
すばらしく歌う。それは私が休んでいないとき、
そして私が彷徨う魂として、水と大地の上を旅するとき。


University of Dusseldorf. http://www.phil-fak.uni-duesseldorf.de/oe-texts/shorter-poems/riddles/

2014年5月15日木曜日

謎詩20番と、古英語詩のしくみについて


古英語の詩には、今で言う「詩」とは大分違ったスタイルがあります。私も理解が及ばないところが多く、またその様式や規則についてはさまざまな意見がありどれが正しいというのも難しいところですが、知っていることを書いていこうと思います。


今回は、一番とっつきやすい「韻」とその歴史について。


1.韻の仕組み

下の謎詩20番を見ていただくと、脚韻を踏んでいないことがわかります。
 たとえば、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』にも出てきた、ハンプティダンプティのマザーグースの歌は、
'Humpty Dumpty sat on a wall,
 Humpty Dumpty had a great fall...'
の2行で始まります。この行末の2語の語尾が一致するのが脚韻。リズムが良くて、唱えやすいと思います。
 この「脚韻」というテクニックは、主に中英語の時代に流行し始めました(例外はありますが)。というのも、ノルマン・コンクエストによってアングロ・サクソン人による支配が一旦終わりを告げ、それと同時に政治言語を含める支配層の言語がノルマン系のフランス語に代わったからです。古英語詩の伝統は、一度ここで途絶えたかに見えます。(この後、14世紀ごろにイングランド北部で古英語詩を髣髴とさせるスタイルの詩が流行し始める時期があり、それが復興なのか継続なのかは、意見の割れるところです)


古英語の詩は、基本的には「頭韻」を踏んでいきます。
下の20番からの抜粋をご覧ください。

'Mec on þissum dagum   dēadne ofgēafon
 fæder ond mōdor;   ne wæs mē feorh þā gēn,
 ealdor in innan.   Þā mec ān ongon,...'


音読していくととてもわかりやすいのですが、語の初めの音が同じものがあります。これが頭韻です。最後の行だけは同じではありませんが、これについては後で説明します。
 頭韻を踏む言葉と踏まない言葉は、その単語に強勢(アクセント)があるかどうかで決まります。たとえば、onなどは強勢がないので、頭韻を踏むことはまずありません。
 また、全ての強勢がある言葉が頭韻を踏まねばならないわけでありません。主なパターンは以下のとおりです。aが頭韻を踏む単語、その他は頭韻を踏まない単語(のまとまり)を表します。古英語詩は1行が2つの詩行で構成されており、真ん中の|は、詩行の分かれ目を表します。こちらは特に詩のリズムと深くかかわってくるので、また別の機会に。

xa|ay
ax|ay
aa|ax

このルールに照らしてみると、1行目の'Mec on...'はxa|ayであることがわかります。'fæder ond...'は、ax|ayでしょう。最後の行は、aa|axだと思います。

 最後の'ealdor in innan...'の行は、どの語も同じ音では始まらないので、一見頭韻を無視しているようにも見えます。実は単語が母音で始まる場合は、他のどんな母音で始まる単語と合わせても良いのです。また、ānは2文字の単語なので本当に強勢がかかるのか?と不思議かと思いますが、長母音なので強勢が付くのです(確か授業でそういう話がありました)。


2.歴史

 さて、なぜ頭韻が好まれたのか。
 アングロ・サクソン人は、5世紀ごろにブリテン島へと移住してきたと言われています。頭韻詩の伝統は彼らが海を渡る前、大陸にいた時代から受け継がれたものだと考えられています。その頃のアングロ・サクソン人は、文字を使うことがあまりありませんでした。ルーン文字はおそらくあったのだとは思いますが、これは文章を記すよりも、呪術的な要素が強く日常的には使用されなかったと見られています。
 アングロ・サクソン人がラテン文字を書くようになったのは、キリスト教が普及した7世紀ごろから。この頃まで、詩などは口伝えだったようです。(ここらへんで歯切れが悪くなるのは、当然同時代の文献がないので、何でも推定になってしまうからです。)『ベーオウルフ』にあるように、またサットン・フーの船塚から発見された竪琴が証拠付けるように、宮廷には宮廷付きの詩人がいました*。また、庶民の間でも祝い事などで、詩を暗誦する習慣があったり、司祭が説教を行う際、まず世俗の詩を歌い民衆の注意を引いたという記録もあります。
 (*とはいえ、この竪琴はファンタジー作品などでよくあるように、女性が爪弾きながら澄んだ声で歌う…というようなものではないそうです。宴会などで男性が弾くものだったようです。旋律は、残念ながらよくわかっていませんが、恐らく単旋律であまり技巧の凝らしていないものだったと考えられています。)
 頭韻は、長い詩を暗誦する必要がある人にとって、記憶の助けとなったと言われています。また、同じ音を繰り返すことは、聞いたものを読み返すことのできない聴衆にとっても、記憶の補助となり、より印象深くなったのだろうと考察されています。




古英語、現代英語、日本語の順に載せています。答えは、反転してどうぞ。



Riddle 20
Mec on þissum dagum   dēadne ofgēafon
fæder ond mōdor;   ne wæs mē feorh þā gēn,
ealdor in innan.   Þā mec ān ongon,
welhold mēge,   wēdum þeccan,
hēold ond freoþode,   hlēosceorpe wrāh
swā ārlīce   swā hire āgen bearn,
oþþæt ic under scēate,   swā mīn gesceapu wǣron,
ungesibbum wearð   ēacen gǣste.
Mec sēo friþemǣg   fēdde siþþan,
oþþæt ic āweox,   wīddor meahte
sīþas āsettan.   Hēo hæfde swǣsra þȳ lǣs
suna ond dohtra,   þȳ hēo swā dyde.


Father and mother abandoned me dead recently;
life was not yet in me,
nor age inside. Then someone began me,
a very kind kinswoman, covers me with clothing,
held and protected, wrapped (me) in protecting garment
as kindly as to her own sons, until I under the surface, 
as my fate was, unrelated (I) was endowed with spirit.
That protective woman fed me afterwards,
until I grow up, and can set out on journeys far and wide.
She held her beloved son and daughters less, by she having      done so.


私は死んだものとして父と母に最近見放された。
命は私にまだなかった、
その中では年をとっていなかった。それから誰かが私を始めたのだ。
とても親切な親族の女性が私に覆いをかけ、
抱いて保護し、守るために衣服で包み
自分の息子たちに対してするように扱った。そこで血を分かたない私は表面下で、
魂を与えられた。私に運命付けられていたように。
その庇護者の女性はその後私に食べ物を与え、
私が成長し、遠く広く旅に出られるようになるまで続けた。
彼女はそうしたことで、より少ない数の最愛の息子や娘たちを抱くことになった。


答え:カッコウの雛。カッコウが托卵することが表現されています。「親族の女性」は、托卵された側の母鳥。同じ鳥類だから「親族」なのでしょうか。「衣服」は、他の謎詩でも出てくることがありますが、羽根の言い換え表現になることがあります。そして、この詩を作った人たちは、カッコウが育つことで、托卵された側の鳥の雛たちの多くが生き残れないことも知っていたのでしょう。
参考文献:
-Bruce Mitchell and Fred C. Robinson(2011)A Guide to Old English
-Peter Baker (2012)Introduction to Old English
-Ed. Malcolm and Lapidge (2013) The Cambridge Companion to Old English Literature (second edition)

2014年1月23日木曜日

古英語詩の読み方2と謎詩53番

古英語の読み方まとめ2です。

ついでに、古い文字の打ち方についても、軽く書いておきました。一々特殊文字を挿入するより、こういった手段を採るほうがはるかに簡単です。

また、この間は参考文献を挙げるのを忘れていましたので、今回は一番下にまとめてあります。




(前回に続き)

3. 当時も今もある文字だけれど、読み方が少々変わってしまったものもあります。

・<g>:[g][j](英語の'y'と同じ)、[ɣ](ドイツ語なんかにある発音です)。一番最後の音は、母音と母音に挟まれているときに起きますが、必ずというわけではないようです。


・<c>:[k]、[tʃ]。読みの区別には、法則はないと思います。たとえば、ic'I'なら/itʃ/と読みます。

・<y>:[y](ドイツ語の<ü>と同じ)。たとえば、cyning'king'

・<h>:音節の始まりでは[h]と読みます(たとえばhwæt, unhēanlīce)が、それ以外の場合は[x][ç]になります。これらは、ドイツ語のNachtichとの<ch>の部分と同じ発音です


4. 文字を組み合わせることによって、発音が変わることもあります。

・<sc>:[ʃ ][sk]、つまり現代英語の<sh>の発音と<sk>の発音です。例ば'fish'の綴りは、当時はfiscでした(読みは同じ!)。主にこちらの読み方のほうが多いです。ただしscōl'school'など、[sk]と読む場合も時々あります。



 元々古英語には<sh>の方の発音しかありませんでしたが、北欧のデーン人、所謂ヴァイキングたちがブリテン島へ攻めてきて定住し、言葉が混ざり合った結果、[sk]の発音も入ってきました。現代英語で[sk]と読むものは、大体は北欧語由来の単語です。例えば、<sky>など
 面白いのが、shirtskirtの関係。実は、両者は語源が同じです。どちらが古英語で、どちらが北欧系かは、すぐ分かると思います。古英語と古北欧語は同じゲルマン語で、いわば親戚筋。被っている単語も沢山あるのですが、当然発音が少々違います。それを、古英語を話すアングロサクソン人は別の単語と理解して、自分たちの元々の単語とは別の意味を付けたのでしょう。(当時のヴァイキングの服装がアングロサクソン人のそれと少し違っていたから、という可能性もあると思います。)

・<cg>:[dʒ]と読みます。ecg'edge'など。

・<ea>:[æa]と読みます。feallan'fall'など。



5. 初心者用入門書の表記では、綴りを読みやすいように変えていることがあります。

・上でも書きましたが、<ƿ>の代わりに<w>を使う場合が多いです。

・同じ綴りでも母音が長いか短いかで別の単語になる場合があるため、長母音の上には '̄' という棒線で表す長音記号を付けます。

・<c><g><ng>のそれぞれの字の上に点が付いている(たとえばġ)ときは、順に[tʃ]、[j]、[ndʒ]と読みます。最後の<ng>は特に、使われる状況がわかりにくいと思いますが、たとえばengel'angel'などがあります。

全ての教科書や参考書がこういう表記をしている訳ではありませんが、文の意味を理解するうえで必要なので、大抵最初の二つはやっていると思います。私も、点の付いた文字を打つのが面倒なので、<ƿ>=<w>表記と長音記号表記のみにしています。



6.古英語をPC上で打つには、いくつかの手段があります。


・これらの文字の一部は、アイスランド語キーボードを設定すればお手軽に打てます。<þ>ð>æ>が使われています。

・また、ƿ>などのかなり特殊なものも、unicodeの最新バージョンには含まれているそうです。どうしても古英語の文字が打ちたい!という方は、junicodeフォントのインストールをお勧めします。unicodeなので、他のPCでも文字化けせずに読むことができるためです。変換方法は、たとえば<ð>なら、00F0と打ってから、altとxを押します。このコードポイントを記載したPDFは、junicodeをインストールする際に一緒にDLされます。

**中世っぽい字体を打ちたければ、古英語の教科書や学習サイトも作成しているPeter Baker作のOld English Font Packがお勧めです。ベーオウルフ写本そっくりの文字などが、打てるようになります。こちらはunicodeではないので、このフォントをインストールしていないPCやその他の媒体では読むことができません。



さて、今度の謎詩は、53番。古英語、現代英語訳、日本語訳の順です。現代英語はかなり直訳的にしています。

答えは、反転してご覧ください。


Riddle 53
Ic wæs wǣpen, wiga.   Nū mec wlonc þeceð
geong hagostealdmon   golde ond sylfore,
wōum wīrbogum.   Hwīlum weras cyssað;
hwīlum ic tō hilde   hlēoþre bonne
wilgehlēþan;   hwīlum wycg byreþ
mec ofer mearce;   hwīlum merehengest
fereð ofer flōdas   frætwum beorhtne;
hwīlum mægða sum   mīnne gefylleð
bōsm bēaghroden;   hwīlum ic on bordum sceal,
heard, hēafodlēas,   behlȳþed licgan;
hwīlum hongige   hyrstum frætwed,
wlitig on wāge,   þǣr weras drincað,
frēolic fyrdsceorp.   hwīlum folcwigan
on wicge wegað,   þonne ic winde sceal
sincfāg swelgan   of sumes bōsme;
hwīlum ic gereordum   rincas laðige
wlonce tō wīne;   hwīlum wrāþum sceal
stefne mīnre   forstolen hreddan,
flȳman fēondsceaþan.   Frige hwæt ic hātte.


I was a weapon, a warrior. Now a proud one covers me,
a proud young warrior, with gold and silver,
bent and twisted ornamental wire. Sometimes men kiss me;
Sometimes I go to battle, summoned by the voice 
of comrades; sometimes a horse carries 
me over borders; sometimes a sea-horse*
carries me across waters with bright treasures;
sometimes some women fills me,
my bosom adorned with rings; sometimes I must lie on a board(/side of a ship/ a shield),    
hard(/resolute), headless, and lie stripped(despoiled).
Sometimes I hang, adorned with ornaments,                  beautiful on the wall of a building, where men drink,
I am a beautiful war-ornament. Sometimes warriors
carry me on a horse, then I richly adorned will swallow wind from someone's bosom; sometimes I with my voice will     summon warriors,
summon people to wine; sometimes with my wroth 
voice I must save that which has been stolen, 
put to flight the robber. Ask what I am called. 



私は武器であり戦士であった。今私は
若く誇り高い戦士によって金銀で覆われ、
ねじられた装飾の金属の線によって飾られている。時々私は人々に接吻される。
時々私は仲間の呼び声によって
戦いへと赴く。時々馬が
私を国境を越えて運ぶ。時々海の馬*が
私を輝く宝物と共に(として?)運ぶ。
時々腕輪をし女たちが輪で飾られた私の胸を満たす。時々私は固い板の上に
頭を撥ねられ、裸になって横たわらねばならない。
時々私は飾り物として、
人々が酒を飲む建物の壁に美しくぶら下がる。
美しい戦の飾りとして。時々戦士たちが
私を馬で運ぶが、その時飾りを付けた私は、
誰かの胸からの風を飲まねばならない。
時々私は声によって戦士たちを招聘し、
人々をワインへと誘う。時々は怒りをもって
私の声によって盗まれたものを救い出し、
泥棒を逃げさせねばならない。私が何と呼ばれるのか、訊ねなさい。

答え:角(角杯、角笛)

解説:
*sea-horse=船のケニング(言い換え表現)
角は角笛として戦に使われることもありましたが、装飾され、蓋などを取り付けられて酒を入れる角杯にもなりました。6,7世紀のアングロ・サクソン人有力者の船墓であるサットン・フーの船塚からも出土しています。美しく細工された角は戦利品として略奪され、貴金属の蓋は切り取られることもあったでしょう。



参考文献:

橋本功(2012)『英語史入門』、寺沢盾(2008)『英語の歴史』、中尾俊夫・寺島廸子(1988)『図説英語史入門』、市河三善、松浪有(1986)『古英語・中英語初歩』Peter Baker (2012) Introduction to Old English, Richard Hogg (2003) An Introduction to Old English, Bruce Mitchell and Fred C. Robinson (2011) A Guide to Old English、Bernard J. Muir (2006) The Exeter Anthology of Old English Poetry
その他大学の講義などからの(曖昧な)記憶(その場合はその旨明記します)
*よくわからない場合は、その旨も明記しています。ご存知の方がいらっしゃいましたら、教えてくだされば非常にありがたいです。

2014年1月14日火曜日

古英語の読み方と謎詩72番

 今回は、古英語の文字と、その読み方について。現代英語の元になった言葉といえど、違うところは結構違います。


古英語は、基本的にはローマ字読みです。つまり、hūse'house'という単語が出てきたら、/hu:se/と読みます。読まない文字は、ありません。

 多少の変化はあるとはいえ、綴りは現代英語とあまり変わってないので、古英語由来の現代の単語をローマ字読みすれば、まあまあもとの古英語に近くなると言えるでしょう。英国で綴りが固定化していったのは、活版印刷が導入された15世紀頃。その前は、ほぼ発音のままに書かれていました。なので、現代英語の綴りにはその当時(かそれ以前)の発音が残っている場合が多いのです。音の変化については色々と変わったところ、変わらなかったところ、変わった時期の違いなどがあって複雑なので、飛ばします。
 古英語の後に続く中英語の時期に、沢山のフランス語・ラテン語などの外来語が入ってきたので、現在使われている単語の内古英語由来のものはかなり限定されます。比較的平易とされる語彙、つまり基本語彙の多くが古英語由来です。sleep, wake, burn, sheep, ox, deer, fishなど…辞書を調べれば、語源が書いてありますので一発でわかります。


 もちろん、ローマ字読みだけでは通用しないところもあります。今では使われていない文字や、読み方が違う文字もあるので、それらについてまとめてみました。

1. 以下、現代の英語には存在しない文字です。ただ、英語を学習したことがあれば、恐らく辞典の発音記号で見おぼえがあるものがほとんどだと思います。
小文字þðæƿ
大文字ÞĐÆǷ

・þðÞĐ:
 [θ][ð]つまり、英語の<th>の発音です。濁るのと濁らないの(有声無声)の両方です。使い分けは、私が見たところはまちまちです。これに関しては、ちゃんとした法則がある、ということは読んだことがまだありません。綴りも標準語も定まっていなかった時代なので、方言や個人差があるのだと思います。音に出して読むときは、母音にはさまれたときは濁りますが、それ以外の時は、基本的に濁りません。そのようにBaker著の本では読んだのですが、現代英語で'that'となったþætなどを有声音として読んでいる例を見つけてしまいました(The Exeter anthology of Old English poetry by Bernard J. Muirの付録DVDの音読より)。また、古くは<þ>が無声、<ð>が有声音を表していたものの、後に区別がなくなった、という表記も見つけました(『古英語・中英語初歩』)。
 þはゲルマン民族が元々持っていた文字体系、「ルーン文字」からの借用です。<ð>は、ラテン文字の<d>にチョンを付けた物。大文字と合わせて見ると、そのことがよく分かると思います。
 文字の読み方は、<þ>がthorn(ソーン)、<ð>がeth(エズ)。<þ>の方は、上が飛び出てトゲみたいだから、と聞いたことがあります。

・æÆ:
 所謂/æ/の音。'cat'の母音の音です。
 文字は、<a>と<e>とを組み合わせて作られました。
 文字の読み方は、ash(アッシュ)。

・ƿǷ:
 現代の<w>と同じ発音です。ちなみに<w>というのは、見ての通り<u>が二つ合わさってできた文字です。<ƿ>は、特に手書きすると<þ>と激似のため、次第に消えていきました。
 この文字も、ルーン文字由来です。
 文字の読み方は、wynn(ウィーン)。

ちなみに、<þ>ð><æ>は、現代アイスランド語で現役です。流石ヴァイキングの開拓した島です。



2. 現代英語にはあっても、当時は無かった文字もあります。

 ・<j, v, w>は、当時は存在しない文字でした。でも、これらの文字が表す発音が全く無かったわけではありません。
 これらの文字は、それぞれ<i, u, uu>から派生したものです。<Jason>の/dʒ/という現代の発音は、確かフランス語由来の音だったはずで、そのため古英語の時点では存在しません。<u>を[v]と読む発音も、当時はたぶんなかったと思いますが、これについてはよく知りません。[w]の音をあらわすときは先ほど述べた<ƿ>のほかに、連続して<uu>と書かれました(<u>だけで表す例もあるかもしれません。初心者なので主に綴りがわかりやすく整理整頓されたテキストを使っており、経験不足でわかりません。)
 ただ、これだと現代人にはとても読みにくいので、初学者用の古英語の教科書やテキストは、敢えて<v>を使っていることが多いです。ウィーンも同じく、<w>に直されているのが普通です。



 まだまだ、今も当時もあるけれど読み方がちょっと違う文字や、組み合わせると特殊な読み方をする文字などがありますが、それはまた今度。そのときに、古英語の打ち方についても語れればいいなあ。

 さて、今回の訳は謎詩72番です。

答えは反転してご覧ください。


Riddle 72
Ic wæs fæmne geong,   feaxhār cwene,
ond ænlic rinc   on āne tīd ;
flēah mid fuglum   ond on flōde swom,
dēaf under ȳþe   dēad mid fiscum
ond on foldan stōp;   hæfde ferð cwicu.

I was a young woman, a grey-haired woman
and a solitary(/beautiful) warrior, at one time;
I flew with birds and swam in the water,
and dove under the wave, I was dead with fishes, 
and on earth stepped, my spirit being alive.

私は一時に若い女であり、白髪の女であり、
孤独な(/美しい)戦士であった。
私は鳥たちと飛び、水の中を泳ぎ、
そして波の下へ潜り、魚たちの間で死んだ。
そして私は地を踏んだー私の魂は生きていた。





答え:不明。過去に提案されたものには、"cuttlefish", "swan", "water", "siren", "writing", "ship's figurehead", "sun"などがあります。私が学習の参考にしているMitchell and Robinsonの本では答えは「わからない」と、完全に投げてあります。


以下、McCarthy(1993)からの要約です。

・サイレーンである説:サイレーンは若い女であり、老女でもあり、また男のサイレーンも存在したす。飛ぶこともできた。ホメロスで語られるサイレーンは最終的に石となったため、魚たちの間で死んでいることになる。
 しかしこれでは最後の行が満足に説明できません。

・船首像である説:女の像の船首は若い女を象っているが経年劣化で木が灰色になっている。波を戦士のように割りながら進み、空に躍り出ては波の下へと沈む。木であるため、この像は「死んで」いる。上陸する際には、飾りは邪魔になるため、取り外されたのであろう。
 しかし、アングロ・サクソン系の船の船首は普通、動物を抽象化したモチーフが彫られたものであり、女を象ったものはない。また、船首が取り外されたからといって地を踏むことにはならず、命が宿る意味もわからない。

・McCarthyが提案する「太陽である説」:古英語では太陽は女性形(she)でも男性形(he)でも表せる。太陽は日の初めは若く、沈むときには老いている。しかし真昼の太陽は戦士にたとえられる事がある(謎詩4番)。また、フェニックスは太陽の象徴でもあるため、空を飛ぶ表現を使うこともできただろう。そして太陽は海に沈んでゆき、再び昇るときには若い姿に戻っている。

カナダのMcMaster大学HPに掲載の説

・雨である説:さまざまな強さで、さまざまな場所に降る雨や霰が表されている。

私は、McCarthyの説がかなり説得力があるのではないかと思いますが、答えがないからこその面白さも、ありますよね。


参考:
-Marcella McCarthy, 'A Solution to Riddle 72 in the Exeter    Book'The Review of English Studies, New Series, Vol. 44, No. 174 (May, 1993) , pp. 204-210, http://www.jstor.org/stable/519198
-McMaster University, Beowulf in Hypertext,  http://www.humanities.mcmaster.ca/~beowulf/manual/practiceExercises.html
-Bruce Mitchell and Fred C. Robinson(2011)A Guide to Old English 

2014年1月11日土曜日

1000年前の謎を解く。謎詩62番と38番。

 今私が読んでいるのは、このアングロ・サクソン人が遺した文献『エクセター写本』に記された、「謎詩」と呼ばれる詩たちです。この写本は、10世紀頃に書かれたと考えられています。

 「謎詩」とは、読んで字のごとく謎かけの詩です。これはアングロ・サクソン人が独自に考えたものではありません。謎かけの伝統は、キリスト教の旧約聖書にまで遡ることができます。士師記には、かの有名な力持ち、サムソンが「食べる者から食べ物が出た。強い者から甘い物が出た」という謎を出題する場面があります。(解は、ライオンの死骸にミツバチが巣を作っていた、というもの)

 キリスト教の言語であるラテン語では、多くの謎詩が作られました。多くは聖書とキリスト教に関連するものです。聖書を良く知っていれば知っているほど答えが分かるので、勉強にもなったのでしょう。

 古英語の謎詩はその伝統を継いで、キリスト教的なものもありますが、ひどく世俗的なものも記されています。古英語の謎詩には答えが記されていませんが、ラテン語のものには答えが付いています。そのため、現代人の解読者には分からないような謎でも、答えが分かったものもあります。でももちろん、考え得る答えが幾つかあったり、さっぱりわからないようなものもあります。
 古英語の謎詩は、「物が自ら喋る」ことがあるのが特徴的です。これは謎詩に限られたことではありませんが、指輪や武器、魚などが、「私は」と語る形で話が進んだりします。発掘された装飾品にも、「誰誰が私を作った」などと刻まれていることがあります。


 今回訳したのは、エクセター写本謎詩62番と、38番。タイトルがないので、順番で識別します。古英語、現代英語、日本語の順に載せています。現代英語と日本語の訳は、私が教科書を参考にしながら考えました。現代英語は直訳的、日本語の方は比較的意訳です。ただ意訳しすぎるとどうしても、謎かけとして成立しなくなってしまうので、かなり読みにくい部分もあると思います。


 まだ色々、古英語の読み方、詩の技巧やお約束についてなど語りたいことはありますが、それはまた、別の謎詩を紹介するときに。

 答えは、反転してご覧ください。 

Riddle 62
Nīs mīn sele swīge,    ne ic sylfa hlūd
ymb dryhtsele;    unc dryhten scōp
sīþ ætsomne.   Ic eom swiftra þonne hē,
þrāgum strengra,   hē þreohtigra.
Hwīlum ic mē reste;   hē sceal rinnan forð.
Ic him in wunige   ā þenden ic lifge;
gif wit unc gedǣlað,    mē bið dēað witod.

My house is not silent(/still),  I am not loud myself
around my retainer’s hall;  we two who God has created
journey together,  I am swifter than he,
and at times stronger,  he is more enduring.
Sometimes I rest myself;  he must hasten forth.
I always live in him,  while I live;
if we two are separated,  I will be decreed death.

私の館は静かではないが、私自身は家臣の館では
音を立てない。神に創られた我々二人は
共に旅をする。私は彼より素早く、
時には彼より強い。彼は私より忍耐強い。
時々私は休む。しかし彼は急ぎゆかねばならない。
私は常に、生きる間は彼の中で暮らす。
もし我々二人が引き離されるなら、私は死を宣告される。


答え:魚と川

解説:
館が川で、その中に棲むのが魚。両方とも動くものなので、一緒に旅をしています。魚は川の中を自在に動き回るので川よりも速く、また遡ることもできるので川より強い時もあります。しかし、魚が疲れても、また寿命が尽きても川は流れ続けます。
Riddle 38
Ic þā wiht geseah   wǣpnedcynnes.
Geoguðmyrþe grǣdig   him on gafol forlēt
ferðfriþende   feower wellan
scīre scēotan   on gesceapþēotan.
Mon maþelode,   se þe mē gesægde:
‘Sēo with, gif hīo gedȳgeð,   dūna briceð;
gif hē tōbirsteð,   bindeð cwice.’

I saw that being of the male sex.
He was greedy for youth’s joys,* he let out as a gift to himself,
the life-sustaining four fountains,
to thrust the gleaming thing into the appointed channel.**
A man spoke, who said of me:
‘That being, if it*** survives, will break hills;
if he breaks apart, bind living things’

私はその雄の生き物を見た。
彼は幼きものの喜び*を貪欲に求め、自身への贈り物として
命を維持する四つの泉を放出し
その光り輝くものを定められた通路へ**と注いだ。
ある男が、私に対してこう言った:
「もしこの生き物である彼女が***生き伸びれば、丘を崩すだろう。
もし彼が崩れれば、生き物を縛るだろう。」




答え:若い雄牛

解説:
*: ie. milk:牛乳
**: ie. throat:喉
***: the feminine 'hīo' used here may be to confuse the audience. It indicates the grammatical gender of 'wiht', while in the last line the poet switches to the natural gender of an ox. :女性三人称単数形、現在のsheに当たるhīoが使われているのは、おそらく聴き手を混乱させるためです。「生き物」という名詞は文法上は女性であるため、「彼女」と呼ぶことができます。でも、「雄牛」という存在の自然の性(雄牛なので雄)に従って呼ぶこともできるため、次の行では、つまり「彼」が使われています。

→つまり、若い雄牛は母牛の乳房から牛乳を貪欲に飲みます。ここまでが4行目の内容。男の台詞が少し難しいですが、こういうことでしょう:「もしこの雄牛が死なずに生き伸びれば、丘を耕すようになるだろう。もし死んでしまったら、革紐にして他の動物を縛る役に立つさ」。

 ちなみに、「四つの泉」というものは、中世の世界観と深くかかわっています。中世においては、海も含め全ての水は地上の楽園(東の方にあるとされた)から流れ出る4つの川から来ているものだと考えられていました。映画「パイレーツ・オブ・カリビアン 命の泉」の「命の泉」はこれの源泉ですね。「命を維持する」と合わせて表現することで、ますますこの4つの川を指しているように見えます。これもまた、解く人を混乱させるための仕掛けなのだと思いま
す。
参考:Bruce Mitchell and Fred C. Robinson (2011) A Guide to Old English